交通事故に遭ってしまい、車両が損傷した場合、事故の相手やご自身の車両保険から、修理代の補償を受けられることは皆さんご存じのことと思います。
では、修理代を支払ってもらう以上の補償は受けることができないのでしょうか?
例えば、皆さんが中古車を購入するとして、同じ年式・車種・走行距離で、交通事故で損傷したことのない車と、交通事故で損傷したことがあるが修理を済ませた車があったとしたら、どちらを選ばれるでしょうか。修理を済ませたとはいえ、「事故の影響が何か残っていたらいやだな」と感じ、交通事故で損傷したことがない車を選ぶのではないでしょうか。そうなると、交通事故で損傷したことはあるが修理を済ませた車は、交通事故に遭ったことがない車に比べて市場価値が下がるということになります。下取りに出すときの価値も下がりうるということになります。このような損傷による価値の下落を損害として請求することができないのか?という問題が「評価損」の請求可否の問題です。
裁判例上、評価損はすべての場合に認められるものではありませんが、新車を購入して数か月で事故に遭った場合や高額なお車の場合で、損傷が車両の本質的構造部分であるフレームを構成する部位まで及んでいる場合などには認められる場合が多くあります。
評価損が認められるかは、初度登録からの期間、走行距離、損傷の部位、車種等を考慮して決められます。通常「修理費用の何%」という形で認められます。
評価損に関する裁判例
参考までに、過去の裁判例を調べてみると以下のようなケースがあります。
判例1 登録から6ヶ月のレクサスRXの評価損
●大阪地判令和2年9月24日(交民53巻5号1123頁)
・被害車両:初度登録平成29年5月のトヨタ社のレクサスRX200tバージョンL(参考:メーカHPへのリンクです。色が異なる可能性があります。)
・初度登録からの期間:事故は平成29年12月14日であり、約6か月
・本件事故当時の走行距離:4040km
・本件事故当時の時価:567万3640円
・損傷部位:バッテリ部分(バッテリトレイ,バッテリランプ等)を含むフロント部分が大破し,前部内板骨格部(左右のフロントサイドメンバー,左右のフロントフェンダーエプロン等)まで損傷し,434万2345円の修理費用を要した
・裁判所の判断:「原告車が本件事故当時初度登録から約6か月の国産高級車であり,損傷が内部骨格を含む相当部分に及んでいることに照らせば,原告車には基本骨格に係る評価損が発生したものと認められる。そして,その損は,上記修理費の約30%である130万円と認めるのが相当である。」
判例2 登録から2年のトヨタクラウンの評価損
●横浜地判令和4年8月31日(交民55巻4号1107頁)
・被害車両:初年度登録平成30年1月のトヨタ社のクラウン(参考:メーカHPへのリンクです。色、グレードが異なる可能性があります。)
・初度登録からの期間:約2年
・走行距離:7303km
・損傷部位:左側面(前後フェンダー、前後ドア、前後ホイール等)が広範囲に凹損、変形。特に、衝突箇所である左前部ドアパネルは著しく変形し、その衝撃により車内のインパネが押し込まれて一部にずれが生じるなどした。
・裁判所の判断:「本件事故により原告車は大破したところ、原告車の車種、走行距離、初度登録からの期間、損傷の部位・程度その他本件に表れた一切の事情を総合し、頭書金額(修理費用の2割相当額)をもって相当と認める」結果、36万3778円の評価損が認められた。
判例3 希少な車の評価損
●東京地判平成29年3月27日(交民50巻6号1641頁)
・被害車両:昭和45年8月初度登録の1966年製メルセデスベンツ250SEカブリオレ(参考:メーカHPへのリンクです。色やグレードが異なる可能性があります。)
・修理費用:430万0401円(消費税込み)
・損傷部位:右フロントフェンダ,フロントバンパマウントサポート,ラジエーターロアサポート,左フロントホイールハウス及び左フロントサイドメンバの鈑金修理や,ラジエーターグリル及び左ヘッドランプユニットの交換を要する
・裁判所の判断:「修理において一部フレームの修正が計上されていること,…本件事故当時製造から48年が経過しており,部品の経年劣化が考えられることから鈑金修理による通常の車両以上の強度低下のおそれが考えられること…,また,…実用よりも美観等が重視されるクラッシックカーであることから,事故による修復歴の影響が軽視できないこと,メルセデスベンツの代理店である株式会社ヤナセが,反訴原告車両について職人の手作業によるフレーム修正の可能性について指摘していること…など,本件に顕れた事情を総合すると,…修理代の約7割である300万円の評価損を生じると認めるのが相当である。」
交通事故に遭った車の評価損のまとめ
交通事故処理について一定の知識を有する方からは評価損の請求についてのご相談依頼がございますが、そうでない方からの依頼は多くない印象を受けます。大事なお車が損傷を受けたとき、修理費用のみの補償では納得がいかないとき、ぜひ一度ご相談を検討されてみてください。