交通事故に遭って車両が損傷した場合、事故の相手方から、通常、修理代の補償を受けられることは皆さんご存じのことと思います。
では、損傷の程度が酷く、修理代が高額になる場合(例えば修理代が50万円を超える場合など)にも、必ず修理代全額を損害として認定してもらえるのでしょうか?
一般的に、修理代が「事故時の車両の時価額+買替諸費用」の合計額を上回る場合には、「事故時の車両の時価額+買替諸費用」の合計額が損害額として認定されることになります。
残念ながら、修理するよりも同程度の中古車に買い替える方が安く済む場合には、その費用(事故直前の車両の時価額と買替諸費用)までしか補償されないということです。
愛着がある車で「買い替えたくない」、「修理をして乗り続けたい」と考え、実際には買替えではなく修理を選んだとしても、事故の相手方から修理代全額を支払ってもらうことはできないということです。
初度登録から10年以内の車の場合、修理代が「事故時の車両の時価額+買替諸費用」の合計額を上回ることはあまりありませんが、初度登録からの期間が10年を超える場合には、修理代が「事故時の車両の時価額+買替諸費用」の合計額を上回るのではないか、というところが裁判等で問題になることがあります。
事故直前の車両の時価額の算定方法
では、「事故直前の車両の時価額」はどのように算定するのでしょうか?
保険実務においては、初度登録から10年以上経過している場合には、新車価格の10%を時価額とするといった取り扱いがされることもあるようですが、裁判例においては、中古車市場での価格が参考にされることが多くなっています。
最判昭和49年4月15日民集28巻3号385号では、
「いわゆる中古車が損傷を受けた場合,当該自動車の事故当時における取引価格は,原則として,これと同一の車種・年式・型,同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によって定めるべき。」と判断されました。
冒頭で記載した通り、「同程度の使用状態・走行距離等の自動車」を中古車市場において取得する場合、中古車の車両本体価格だけでなく、「買替諸費用」が必要になります。
買替諸費用の算定方法
買替諸費用というのは、車両を買い替える場合にかかる登録費用、車庫証明費用などの車両本体価格以外の諸費用のことを指します。裁判において、買替諸費用の額を立証する場合には、買替えを想定した場合の見積書や、実際に買替えを行った際にかかった明細書などを証拠として提出することが多いです。
具体的には以下のようなものが買替諸費用として認められています。
- 検査・登録費用(ディーラー報酬部分のうち妥当な範囲のものを含む。)
- 車庫証明費用(ディーラー報酬部分のうち妥当な範囲のものを含む。)
- 廃車の法定手数料
- 納車費用
- リサイクル預託金
- 自動車取得税(令和1年10月1日以降は環境性能割)
- 事故車両の自動車重量税の未経過分(「使用済自動車の再資源化等に関する法律」により適正に解体され、永久抹消登録されて還付された分は除きます。)
以下は買替諸費用としては認められません。
- 事故車両の自賠責保険料
- 新しく取得した車両の自動車税
- 新しく取得した車両の自動車重量税
- 新しく取得した車両の自賠責保険料
最後に
田所法律事務所では、適切な時価額・買替諸費用を相手方・保険会社に認めさせるために、車両の型式、年度、走行距離、車体の状況などから中古車市場と比較して適切な時価額になるよう努め、計上できる買替諸費用を漏らさず計上するよう努めております。
交通事故の場合、身体的損害も含め、多くの項目を取りこぼしなく積み上げて交渉していく必要があります。大切なお車が損傷を受け、修理費用の補償を受けられない可能性がある場合、ぜひ一度ご相談を検討されてみてください。